企業が顧客とのつながりを深めるために活用するのがCRM(顧客関係管理)です。この記事では、CRMの基礎知識から、具体的な分析方法まで紹介します。
CRMとは何か?
CRMとは「顧客データ」を活用して顧客との関係を長期的に強化するためのツールや戦略を指します。
主に「顧客データ」を収集・分析し、マーケティング活動や営業活動を効率化することが目的です。
CRMツールは、顧客の「購買履歴」や「行動パターン」を把握し、個別にカスタマイズされたサービスを提供するために利用されます。これにより、顧客満足度の向上や「リピート率」の増加が期待されるのです。日本国内でも、多くの企業がCRMを導入し、競争力を高めています。特に、クラウド型CRMは「中小企業」にも導入しやすく、コスト効率の面でも優れています。CRMの活用により、企業は顧客との長期的な関係を築き、持続的な成長を目指すことが可能です。
CRMが生まれた背景
CRMは1990年代前半にアメリカで生まれた概念です。
1990年代に入ると、顧客のニーズが多様化し、従来のマス・マーケティングでは対応が難しくなりました。顧客ごとの情報を詳細に管理し、個別対応が求められるようになります。
また、ITの進化により、大量のデータを効率的に管理・分析できるようになり、個々の顧客情報を活用するマーケティングが可能になりました。
これにより、マーケティング手法はマス・マーケティングから「One to Oneマーケティング」に移行し、顧客情報の正確な管理が重視されるようになりました。企業は顧客満足度の向上と長期的な関係構築を重視するようになり、そのためにCRM(顧客関係管理)が活用され始めました。
CRM戦略を実施するメリット
CRM(顧客関係管理)はマーケティングの戦略手法とツールの両方を指しますが、ここでは主にCRM戦略を活用するメリットを説明します。
顧客満足度の向上
顧客状況を把握したうえで個別対応するため、きめ細やかな対応や適切なタイミングでのフォローアップができます。この結果、顧客満足度の向上につながります。
また、顧客情報の一元管理により、過去の対応履歴を踏まえたスムーズな対応が可能になり、顧客の信頼度も高まります。
売上とロイヤルティの向上
顧客満足度の向上は、リピート購入や口コミ効果につながります。これにより、売上の向上や優良顧客の獲得が期待できます。また、長期的な顧客との関係構築により、顧客生涯価値(LTV)も向上します。
CRMシステム導入で業務の効率化とコスト削減を実現
顧客情報を一元管理し、営業活動やマーケティング活動を最適化するためのシステムを導入することで、顧客対応の迅速化やデータ分析による戦略立案が可能となり、業務の効率化が進みます。
さらに、CRMシステムは自動化機能を持ち、手作業の削減による人件費の節約にも寄与します。例えば、メールの自動配信やリード管理の自動化が挙げられます。これにより、より価値の高い業務に工数を割けるようになり、全体的な生産性向上に繋がります。
CRMの分析方法
CRMで使用される分析方法には、複数の種類があります。
RFM分析
最も一般的なCRM分析手法の1つです。
- Recency (最終購買日)
- Frequency (購買頻度)
- Monetary (購買金額)
この3つの指標を用いて顧客をセグメント化し、優良顧客を特定します。優良顧客への重点的なアプローチや、離反しそうな顧客の早期発見に役立ちます。
デシル分析
顧客を購買金額順に10等分し、上位から順にグループ分けする手法です。売上への貢献度が高い顧客層を特定できます。上位グループの顧客維持や、下位グループの顧客の引き上げなどの戦略立案に活用できます。
CPM分析
RFM分析に「顧客の在籍期間」を加えた分析手法です。顧客を10グループに分類し、それぞれのグループに適したアプローチ方法を検討します。長期的な顧客との関係構築に有効です。
セグメンテーション分析
顧客を属性や行動パターンなどの類似性で分類し、各セグメントの特徴を把握する手法です。ターゲットを絞ったマーケティング施策の立案に役立ちます。
LTV分析
顧客生涯価値(Lifetime Value)を算出し分析する手法です。長期的な顧客価値を予測し、顧客獲得コストとのバランスを考慮した戦略立案に活用できます。
行動トレンド分析
特定のシーズンや期間における顧客の購買行動を分析する手法です。季節性のある商品やサービスを提供する企業に特に有効です。
これらの分析手法を組み合わせることで、より深い顧客理解が可能になり、効果的なCRM戦略の立案につながります。分析結果を基に、顧客セグメントごとにカスタマイズされたアプローチを行うことで、顧客満足度の向上と売上の増加を図ることができます。
CRM分析を実施する際の手順
1. 分析の目的を明確にする
まず、CRM分析を行う目的を明確にします。例えば「優良顧客の特徴を把握したい」「解約率を下げたい」など、具体的な目標を設定します。
2. 必要なデータを特定し収集する
目的に応じて必要なデータを特定し、収集します。例えば以下のようなデータがあります。
- 顧客の基本情報(年齢、性別、職業など)
- 購買履歴(購入日、金額、商品など)
- サービス利用状況
- 問い合わせ履歴
3. データの前処理を行う
収集したデータの品質をチェックし、必要に応じてクレンジングや統合を行います。欠損値の処理や異常値の除去なども行います。
4. 適切な分析手法を選択する
目的に応じて適切な分析手法を選択します。例えば
- RFM分析
- セグメンテーション分析
- LTV分析
- デシル分析
など、複数の手法を組み合わせることも効果的です。
5. 分析を実行する
選択した手法に基づいて実際に分析を行います。CRMツールやBIツールなどを活用し、効率的に分析を進めます。
6. 結果を解釈し、インサイトを抽出する
分析結果を解釈し、ビジネスに活用できるインサイトを抽出します。グラフや図表を用いて視覚化し、わかりやすくまとめることが重要です。
7. 施策を実行し、効果を測定する
立案したアクションプランを実行し、その効果を測定します。KPIを設定し、定期的にモニタリングすることが重要です。
8. 結果をフィードバックし、改善する
効果測定の結果をフィードバックし、必要に応じて分析手法や施策を改善します。PDCAサイクルを回し、継続的な改善を図ります。
CRMと他のツール(MA、SFA、ERP)との違い
混同されやすいものについてそれぞれ説明します。
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MA(マーケティングオートメーション)
- マーケティング活動を自動化し、効率化するためのツールや仕組みを指します。企業が顧客に対して最適なタイミングでメッセージを届けたり、見込み客を育成したりするために使われます。
主な機能:
- メール配信や広告配信などのマーケティング施策を自動化
- リードスコアリングによる見込み客の質の評価
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SFA(営業支援システム)
- SFA(Sales Force Automation)とは、営業活動を支援・自動化するためのシステムです。営業プロセスを効率化し、顧客管理や商談の進捗管理をサポートすることで、営業チームの成果を最大化します。
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ERP(統合基幹業務システム)
- 企業のあらゆる業務を統合的に管理するシステムです。会計、在庫管理、人事、販売、製造などの各業務を一つのシステムで連携させることで、全体の効率を向上させます。これにより、情報の一元管理が可能になり、業務プロセスの可視化と最適化を支援します。
主な機能:財務、人事、生産、販売財務などの管理
CRM導入成功のためのポイント
課題と目的を明確にする
分析を始める前に、自社の課題や分析の目的を明確にすることが重要です。何を知りたいのか、どのような成果を期待しているのかを明確にしておくことで、適切な分析手法を選択し、効率的に分析を進めることができます。
複数の分析手法を組み合わせる
単一の分析手法だけでなく、複数の手法を組み合わせることで、より多角的な視点から顧客を理解することができます。例えば、RFM分析とセグメンテーション分析を組み合わせることで、より詳細な顧客像を把握できます。
定期的な分析と見直し
顧客の行動や市場環境は常に変化しています。定期的に分析を行い、その結果に基づいて戦略を見直すことが重要です。分析結果をPDCAサイクルを回し、継続的な改善を図りましょう。
CRM分析・ツールを上手に活用しよう
CRMを成功させるためには、単なるツールの導入にとどまらず、顧客中心の企業文化の醸成、継続的なデータ分析とその活用、そして常に変化する顧客ニーズへの柔軟な対応が求められます。
適切に実施されたCRM戦略は、顧客満足度の向上、売上の増加、競争力の強化など、多くのビジネス上の利点をもたらします。今後も技術の進化とともにCRMの重要性は増していくと考えられ、企業の持続的な成長と成功のための重要な要素となっていくでしょう。